簡易水冷CPUクーラーを導入しているPCの動作が、最近どうも安定しない。そんな風に感じていませんか。特にCPU温度が以前より高くなっている場合、その原因はサーマルグリスの劣化かもしれません。
しかし、そもそもグリスは塗り直し必要なの?と疑問に思う方もいるでしょう。また、塗り直し期間や頻度の目安が分からず、なかなか手を出せないケースも少なくありません。グリスの塗り直しは、CPUの性能を最大限に引き出し、PCを長持ちさせるために大切なメンテナンス作業です。
この記事では、簡易水冷のグリス塗り替えにまつわる様々な疑問にお答えします。塗り直しの効果から、具体的なCPUグリスの拭き取り方、初心者でも失敗しない塗り方のコツ、そして最新のおすすめのCPUグリスまで、必要な情報を網羅的に解説します。この記事を読めば、あなたのPCも本来の冷却性能を取り戻せるはずです。
- グリスを塗り直すべき適切なタイミングや頻度
- 初心者でも安全にできるグリスの拭き取り方と塗り方
- グリス交換によって得られる具体的な冷却効果
- PCのスペックや用途に合わせた最適なグリスの選び方
簡易水冷のグリス塗り替えとその必要性

- そもそもグリスは塗り直し必要なの?
- 塗り直し期間や頻度の目安とは
- 正しいCPUグリスの拭き取り方法
- 初心者でもできる塗り直しやり方
そもそもグリスは塗り直し必要なの?
CPUグリスの塗り直しは、お使いのPCの性能を長期的に維持するために、非常に大切なメンテナンス作業です。CPUとCPUクーラーは、どちらも金属でできており、一見すると完全に平らに見えます。しかし、実際には目に見えない微細な凹凸が存在しており、この凹凸が原因で隙間が生まれてしまいます。この隙間は空気の層となり、CPUで発生した熱がクーラーへ伝わるのを妨げてしまうのです。
CPUグリスは、この微細な隙間を埋め、熱伝導の効率を最大化する役割を担っています。つまり、グリスがあるおかげで、CPUの熱がスムーズにクーラーへと移動し、効率的に冷却されるわけです。
ただし、グリスは時間と共に乾燥したり、成分が分離したりして劣化が進みます。劣化したグリスは本来の熱伝導性能を失い、熱がこもりやすくなってしまいます。その結果、CPUの温度が上昇し、PCの動作が不安定になる「サーマルスロットリング」という現象を引き起こしたり、冷却ファンが常に高速で回転して騒音が大きくなったりする原因となるのです。
これらの理由から、PCを常に最適な状態で使用するためには、定期的なグリスの塗り直しが不可欠と考えられます。
塗り直し期間や頻度の目安とは

グリスを塗り直す期間や頻度については、一般的に「1年から2年に1回」が目安とされています。ただ、これはあくまで一般的な目安であり、PCの使用状況やグリスの種類によって最適なタイミングは異なります。
例えば、日常的に動画編集やPCゲームなど、CPUに高い負荷がかかる作業を行う場合、グリスの劣化は早まる傾向にあります。このような使い方をする場合は、1年未満であっても塗り直しを検討するのが望ましいでしょう。逆に、インターネットの閲覧や書類作成が中心のライトな使い方であれば、2年以上問題なく使用できることもあります。
また、使用するグリスの耐久性も頻度に影響を与えます。安価なシリコングリスよりも、高性能なダイヤモンドグリスや、長期的な耐久性を謳う製品の方が長持ちします。インプットした情報の中には、4年以上経過しても性能を維持できると謳われる製品もありました。
具体的な塗り替えのサインとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 何もしていないアイドル時のCPU温度が以前より5℃以上高い
- 高負荷をかけるとCPU温度が急激に上昇し、なかなか下がらない
- 以前よりCPUクーラーのファンの音が明らかに大きくなった
PCの挙動にこれらの変化を感じたら、使用期間にかかわらずグリスの状態を確認し、塗り替えを検討する良い機会と言えます。
正しいCPUグリスの拭き取り方法
新しいグリスを塗る前に、古いグリスを完全かつ綺麗に除去する作業が、塗り替えの成否を分ける鍵となります。古いグリスが残っていると、新しいグリスを塗っても性能を最大限に発揮できません。
拭き取りに必要な道具
- 拭き取るための液体: 無水エタノールまたはイソプロピルアルコールが最適です。薬局やオンラインで入手できます。なければ、専用のグリスクリーナーも市販されています。
- 拭き取るための布: 糸くずの出ないマイクロファイバークロスや、コーヒーフィルター、ペーパータオルなどが適しています。ティッシュペーパーは繊維が残りやすいため、あまりおすすめできません。
- その他: 作業中の静電気対策として、手袋をしておくとより安全です。
拭き取りの手順
まず、CPUクーラーを取り外したら、CPUの表面(ヒートスプレッダ)とCPUクーラーの接触面の双方に残っている古いグリスを拭き取ります。
乾燥して固まっているグリスは、まず乾いた布で大まかに取り除きます。その後、布にアルコールを少量染み込ませ、グリスの中心から外側に向かって円を描くように優しく拭き取っていきましょう。力を入れて擦るとCPUやクーラーの表面を傷つける可能性があるため、あくまで優しく拭き上げるのがコツです。
一度で綺麗にならない場合は、新しい布に交換して同じ作業を繰り返します。グリスが完全に除去され、金属面が鏡のように輝くまで拭き上げてください。この丁寧な下準備が、新しいグリスの性能を最大限に引き出すことにつながります。
初心者でもできる塗り直しやり方

古いグリスを綺麗に拭き取ったら、いよいよ新しいグリスを塗る工程です。初心者の方が最も不安に感じる部分かもしれませんが、ポイントさえ押さえれば決して難しい作業ではありません。
グリスの塗布量と位置
グリスの量は、多すぎても少なすぎてもいけません。最適な量は「米粒一つぶ」から「あずき一粒」程度とよく言われます。量が多すぎると、クーラーを圧着した際にはみ出し、マザーボードを汚したり、最悪の場合はショートの原因になったりします。逆に少なすぎると、CPUの表面全体をカバーできず、冷却ムラができてしまいます。
塗布する位置は、CPUの表面(ヒートスプレッダ)のちょうど中央に、点で置くのが最も簡単で確実な方法です。
CPUクーラーの取り付け方
グリスを中央に置いたら、ヘラなどで塗り広げる必要はありません。CPUクーラーを上から載せる際の圧力で、グリスは自然に均一に広がります。ヘラで下手に触ると、気泡が入ってしまい、かえって熱伝導の妨げになる可能性があるからです。
CPUクーラーは、CPUに対して平行になるように、ゆっくりと真上から下ろします。位置が決まったら、マザーボードに固定するためのネジを締めていきますが、この時にもコツがあります。4つのネジを、1つずつ完全に締めるのではなく、対角線上のネジを交互に少しずつ(2~3周ずつ)締めていく「X字締め」または「対角締め」を行ってください。これにより、圧力が均等にかかり、グリスが綺麗に広がります。
この「適量を中央に置き、圧着して広げる」方法が、初心者にとって最も失敗が少なく、安定した効果を得やすいやり方と言えるでしょう。
簡易水冷のグリス塗り替えによる効果

- データで見るグリス塗り直しの効果
- 最新のおすすめのCPUグリスを紹介
- 適切な簡易水冷グリス塗り替えの重要性
データで見るグリス塗り直しの効果
グリスを塗り替えることで、実際にどの程度の効果があるのかは最も気になるところです。結論から言うと、特に長期間メンテナンスをしていなかったPCでは、CPU温度の低下という形で明確な効果が現れます。
インプットした複数の記事データによると、グリスの塗り替えによってCPU温度が平均で4℃~5℃、状況によってはそれ以上低下したという報告が確認できました。一例として、高負荷なベンチマークソフトを実行した際の温度変化を見てみましょう。
テスト項目 | 塗り替え前 | 通常グリス(12.8W/mK) | 高性能グリス(20W/mK以上) |
---|---|---|---|
Cinebench実行時のCPU温度 | 76℃ | 75℃ | 74℃ |
OCCT(高負荷)実行時のCPU温度 | 87℃ | 86℃ | 84℃ |
このように、負荷が高い状況ほど、グリスの性能差が温度という形で表れやすくなる傾向があります。数℃の違いはわずかに見えるかもしれませんが、この差がサーマルスロットリングの発生を防ぎ、CPUが本来のクロック周波数を維持できるかどうかの分かれ目になることがあるのです。
また、冷却効率が上がることで、同じ温度を維持するために必要なファンの回転数が下がるという副次的な効果も期待できます。これは、PCの静音化に直接つながります。4年間放置したグリスを安価なシリコングリスに塗り替えただけでも、アイドル時の温度が10℃近く下がったという事例もありました。
これらのデータから、グリスの塗り直しは単なる気休めではなく、PCのパフォーマンスと静音性を向上させる、根拠のあるメンテナンス作業であると考えられます。
最新のおすすめのCPUグリスを紹介

いざグリスを選ぼうとしても、市場には数多くの製品があり、どれを選べば良いか迷ってしまうかもしれません。ここでは、PCの用途や求める性能に合わせて、いくつか代表的な製品と考え方を紹介します。
選ぶ際のポイントは「熱伝導率」「塗りやすさ(粘度)」「耐久性」そして「価格」のバランスです。
初心者向け:コスパと扱いやすさ重視
初めてグリスを塗り替える方や、一般的な用途のPCには、コストパフォーマンスが高く、塗りやすい非導電性のシリコングリスがおすすめです。万が一はみ出してもショートの心配がなく、安心して作業できます。
- ARCTIC MX-4 / MX-6: 長年の定番製品で、優れた性能と扱いやすさ、価格のバランスが取れています。迷ったらこれを選んでおけば間違いない、というほどの信頼性があります。
- シミオシ OC Masterシリーズ: 日本の著名なオーバークロッカーが監修しており、性能と塗りやすさを両立したモデルが人気です。
ゲーマー・クリエイター向け:性能を最優先
高負荷な状態が続くゲーミングPCやワークステーションには、熱伝導率が非常に高い製品が適しています。価格は高めになりますが、それに見合う冷却性能を発揮します。
- Thermal Grizzly Kryonaut: 高性能グリスの代名詞的存在です。最高の冷却性能を求めるユーザーから絶大な支持を得ていますが、非常に高価で、偽物も出回っているため購入時には注意が必要です。
- えくすとりーむぐりす あるてぃめいとシリーズ: インプットした記事でも高評価だったシリーズです。特に「れっど」や「うるとらばいおれっと」モデルは極めて高い熱伝導率を誇ります。ただし、一部モデルは粘度が高く(硬く)、塗布にコツがいるため上級者向けと言えます。
以下の表は、代表的なグリスの特性を比較したものです。
製品名 | タイプ | 熱伝導率(W/mK) | 塗りやすさ(粘度) | 特徴 |
---|---|---|---|---|
ARCTIC MX-4 | カーボン(非導電性) | 8.5 | 塗りやすい | 定番。コスパと性能のバランスが良い |
シミオシ OC Master | シリコン(非導電性) | 13.2 | 比較的塗りやすい | 日本製の安心感。性能も高い |
Thermal Grizzly Kryonaut | 特殊金属酸化物(非導電性) | 12.5 | やや硬め | ハイエンド。性能は最高峰だが高価 |
えくすとりーむぐりす あるてぃめいと | 非公開(非導電性) | 20.0以上 | やや硬め | 非常に高い熱伝導率と耐久性 |
簡易水冷のグリス塗り替えについて総括
この記事を通じて解説してきたポイントを、最後にまとめます。簡易水冷クーラーの性能を最大限に引き出し、PCを長く快適に使い続けるために、以下の点を改めて心に留めておいてください。
- CPUグリスはCPUの熱をクーラーに伝える潤滑剤の役割を担う
- 時間と共にグリスは劣化し熱伝導率が低下する
- 塗り替えを怠るとCPU温度が上昇し性能低下の原因となる
- 塗り替えの一般的な目安は1年~2年
- 高負荷な作業が多いPCはより短い期間での交換を推奨
- アイドル時の温度上昇やファンの騒音は交換のサイン
- 古いグリスは無水エタノールなどで完全に拭き取ることが大切
- 新しいグリスの量は米粒大が基本
- グリスはCPUの中央に1点だけ置くのが初心者にはおすすめ
- クーラーは対角線上に少しずつ均等にネジを締めて圧着する
- グリスの塗り替えでCPU温度は明確に低下する
- 冷却効率の改善はPCの安定動作と静音化につながる
- グリス選びは熱伝導率、塗りやすさ、耐久性のバランスで決める
- 初心者には非導電性で扱いやすいグリスが安全
- 簡易水冷のグリス塗り替えはPCの健康診断とも言える重要なメンテナンスである