パソコンのメンテナンスで重要な、CPUクーラーのグリス拭き取り。いざやろうと思っても「一体何を使えばいいの?」と悩んでいませんか。
身近にあるウェットティッシュやキッチンペーパーで代用できるのか、それとも専用のアルコール製品、例えば無水エタノールやキムワイプ、あるいはエレクトロニッククリーナーやパーツクリーナーのようなものを使うべきなのか。拭き取りにおすすめはどれかと、最適な道具選びは難しいものです。
この記事では、そんな悩みを解決するために、それぞれの道具のメリット・デメリットを徹底比較。安全で確実な拭き取り手順から、その後のCPUグリスの塗り方まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。
- グリス拭き取りに使える各道具の長所と短所がわかる
- 安全で正しいグリスの拭き取り手順を習得できる
- 状況やスキルレベルに応じたおすすめの拭き取りアイテムが見つかる
- 拭き取り後のCPUグリスの正しい塗り方の基本がわかる
CPUクーラーのグリス拭き取りで使う道具の比較

- ウェットティッシュを使う際の注意点
- キッチンペーパーは繊維が残るリスク
- 定番は無水エタノールとキムワイプの併用
- 便利なエレクトロニッククリーナーとは
- パーツクリーナーは電子部品用を選ぶ
- 結局、拭き取りにおすすめはどれか
ウェットティッシュを使う際の注意点

CPUグリスの拭き取りで、最も手軽に思いつくのがウェットティッシュかもしれません。しかし、どのウェットティッシュでも良いというわけではないため注意が必要です。
結論から言うと、アルコール(エタノール)成分が含まれている製品を選ぶのが望ましいです。CPUグリスは油性の汚れに近いため、水だけで作られたウェットティッシュでは綺麗に落としきれない場合があります。アルコール成分が含まれていれば、油分を分解しやすくなり、拭き取りが格段に楽になります。
ただし、アルコール入りのウェットティッシュを使う際にもデメリットは存在します。
ウェットティッシュ使用時の注意点
ウェットティッシュは、製品によって含まれる成分が異なります。保湿成分や香料などが含まれているものは避けましょう。これらの成分がCPU表面に残留すると、新しく塗るグリスの密着を妨げ、熱伝導の効率を下げてしまう可能性があります。
また、ティッシュ自体の繊維がCPU表面に残ってしまうことも少なくありません。拭き取り後は、繊維が残っていないかを入念に確認する必要があります。
このように、手軽ではあるものの、成分の確認や拭き残しのチェックなど、いくつかの注意点を守る必要があります。緊急時や他に道具がない場合の選択肢としては有効ですが、最適な方法とは言えないのが実情です。
キッチンペーパーは繊維が残るリスク

ウェットティッシュと同様に、家庭にあるキッチンペーパーを代用品として考える方もいるかもしれません。特に、無水エタノールなどの液体クリーナーと組み合わせて使うケースが想定されます。
しかし、キッチンペーパーの使用は基本的におすすめできません。その最大の理由は、「繊維の残りやすさ」にあります。
キッチンペーパーは、水分や油分を吸収しやすいように作られていますが、その分、紙の繊維がもろく、拭き作業中に簡単にちぎれてしまいます。このちぎれた細かい繊維がCPUのヒートスプレッダ(銀色の表面)やCPUクーラーの接着面に付着すると、新しく塗るグリスと混ざってしまい、熱伝導を阻害する大きな原因となります。
繊維が引き起こす冷却性能の低下
CPUとクーラーの間の熱伝導は、数ミクロン単位の接触によって成り立っています。そこに目に見えないほどの小さな繊維が挟まるだけで、微細な空気の層ができてしまいます。空気は熱伝導率が非常に悪いため、このわずかな隙間がCPUの熱をクーラーに伝える際のボトルネックとなり、結果として冷却性能が著しく低下するのです。
さらに、ゴシゴシと強くこすると、CPUの表面に微細な傷をつけてしまう可能性もゼロではありません。このような理由から、キッチンペーパーはCPUグリスの拭き取りには不向きと言えるでしょう。もし他に選択肢がない場合は、あくまで自己責任のもと、非常に優しく、繊維が残らないように細心の注意を払って使用する必要があります。
定番は無水エタノールとキムワイプの併用

自作PCユーザーやメンテナンスに詳しい人の間で、CPUグリス拭き取りの「定番」や「鉄板」とされているのが、無水エタノールとキムワイプの組み合わせです。
この組み合わせが支持されるのには、明確な理由があります。
無水エタノールが選ばれる理由
無水エタノールは、その名の通り水分をほとんど含まない高純度のアルコールです。これには主に2つの大きなメリットがあります。
- 高い洗浄力: CPUグリスの主成分である油分を強力に溶解します。固着してしまった古いグリスも、染み込ませることで柔らかくし、簡単に除去できます。
- 速乾性: 揮発性が非常に高いため、拭き取り後にCPU表面に液体が残留する心配がありません。すぐに乾くので、拭き取りからグリス塗布までの作業をスムーズに進められます。
キムワイプが最適な理由
キムワイプは、研究室や精密機器の清掃などで使用される産業用のワイパーです。最大の特徴は、「毛羽立ちが非常に少ない」という点にあります。
ティッシュペーパーやキッチンペーパーと違い、拭き作業中に繊維がほとんど出ません。これにより、前述のような繊維の残留による冷却性能の低下リスクを最小限に抑えることができます。また、強度も高いため、エタノールを染み込ませても破れにくいのも利点です。
私自身も、PCのメンテナンスを行う際は必ずこの「無水エタノール+キムワイプ」のセットを愛用しています。洗浄力と安全性を両立できる、まさに王道の組み合わせと言えるでしょう。薬局や通販で簡単に入手できるのも嬉しいポイントですね。
このように、確実性と安全性を求めるのであれば、無水エタノールとキムワイプを揃えておくのが最も賢明な選択です。
便利なエレクトロニッククリーナーとは

より手軽で簡単な方法を求めるなら、エレクトロニッククリーナーという選択肢も非常に有効です。これは「接点洗浄剤」とも呼ばれ、電子部品の清掃に特化したスプレータイプの化学製品です。
エレクトロニッククリーナーの最大のメリットは、その手軽さと速乾性にあります。
スプレー式なので、CPU表面に直接吹きかけるだけで、古いグリスを素早く溶かしてくれます。液体を染み込ませて拭く、という手間が必要ありません。また、非常に揮発性が高く、吹きかけた後すぐに乾燥するため、作業時間を大幅に短縮できます。
ピンの隙間に入ったグリスにも有効
特にAMDのCPUなどで、誤ってCPUソケットのピン穴にグリスが入り込んでしまった場合、エレクトロニッククリーナーは絶大な効果を発揮します。綿棒などでは届かない細かい隙間のグリスも、スプレーの圧力で吹き飛ばしながら洗浄することが可能です。
ただし、使用する際にはいくつか注意点があります。まず、強力な洗浄力と噴射力があるため、周囲に液体が飛び散らないように、あらかじめティッシュなどでCPU周りを養生しておくと安心です。また、製品によってはプラスチックを侵す成分が含まれている可能性もあるため、必ず「プラスチック対応」と明記された製品を選ぶようにしましょう。
呉工業の「KURE エレクトロニッククリーナー」などが代表的な製品で、ホームセンターやカー用品店、通販などで入手できます。手間をかけずに素早く作業を終えたい方には、非常におすすめのアイテムです。
パーツクリーナーは電子部品用を選ぶ
パーツクリーナーもグリスの除去に有効なアイテムですが、選ぶ際には最大の注意が必要です。一般的に「パーツクリーナー」というと、自動車や機械部品の油汚れを落とすための強力な脱脂洗浄剤を指すことが多く、これらをPCパーツに使用するのは非常に危険です。
なぜなら、多くの安価なパーツクリーナーには、プラスチックやゴムを侵食する(溶かす)成分が含まれているからです。これをマザーボードやCPUソケット周りに使用してしまうと、取り返しのつかない故障に繋がる可能性があります。
パーツクリーナー選びの絶対条件
もしパーツクリーナーを使用する場合は、必ず以下の条件を満たす製品を選んでください。
- 「電子部品用」または「精密機器用」と明記されていること
- 「プラスチックセーフ」「ゴム・プラスチック対応」といった表記があること
- 速乾性であること
これらの条件を満たさない製品は、絶対にPCパーツに使用しないでください。
前述のエレクトロニッククリーナーもパーツクリーナーの一種と考えることができますが、「パーツクリーナー」という広い括りの中には危険な製品も含まれている、と認識しておくことが重要です。電子部品用のパーツクリーナーは、正しく選べば非常に強力で便利なツールですが、製品選びを間違えるとPCを破壊しかねない諸刃の剣でもあるのです。
自信がない場合は、より安全な無水エタノールや、用途が明確なエレクトロニッククリーナーを選択することをおすすめします。
結局、拭き取りにおすすめはどれか
ここまで、CPUグリスの拭き取りに使える様々な道具を紹介してきました。それぞれのメリット・デメリットをまとめると、結局どれが一番おすすめなのでしょうか。
結論としては、「安全性と確実性を最優先するなら、専用のグリスクリーナーまたは無水エタノールとキムワイプのセット」が最も推奨できる選択肢です。
それぞれのアイテムの特徴を一覧表にまとめてみました。
アイテム名 | 洗浄力 | 手軽さ | コスト | 安全性・注意点 |
---|---|---|---|---|
ウェットティッシュ | △ | ◎ | ◎ | アルコール入りを選び、保湿成分等がないか確認が必要。繊維が残りやすい。 |
キッチンペーパー | × | ◎ | ◎ | 繊維が非常に残りやすく、熱伝導を阻害するリスクが極めて高い。非推奨。 |
無水エタノール+キムワイプ | ◎ | ○ | ○ | 定番の組み合わせ。洗浄力、安全性ともに高く、最も信頼できる方法の一つ。 |
エレクトロニッククリーナー | ◎ | ◎ | △ | スプレー式で手軽。細かい部分の洗浄にも強いが、プラスチック対応品を選ぶ必要あり。 |
パーツクリーナー | ◎ | ◎ | △ | 必ず「電子部品用」「プラスチック対応」を選ぶこと。誤用するとパーツ破損のリスク大。 |
専用グリスクリーナー | ◎ | ○ | △ | グリス除去に最適化されており最も安全。クリーナーとワイプがセットになった製品もある。 |
もしあなたが初めてグリスの塗り直しを行うのであれば、専用のグリスクリーナーキットを購入するのが一番間違いありません。必要なものが全て揃っているため、迷うことなく安心して作業できます。
一方、今後も定期的にPCメンテナンスを行う予定があるなら、汎用性の高い無水エタノールとキムワイプを揃えておくのがコストパフォーマンスに優れていると言えるでしょう。
自分のスキルレベルや、かけられるコスト、今後のメンテナンス頻度などを考慮して、最適なアイテムを選んでみてください。
安全なCPUクーラーのグリス拭き取り実践ガイド

- 固着したグリスを安全に剥がす方法
- 静電気対策は必ず行うこと
- 拭き取り後のCPUグリスの塗り方
- 丁寧なCPUクーラーのグリス拭き取りで性能復活
固着したグリスを安全に剥がす方法

長期間メンテナンスをしていないPCでは、古いCPUグリスが乾燥してカピカピに固着してしまっていることがあります。この状態で無理にCPUクーラーを剥がそうとすると、CPUがソケットごと抜けてしまう「スッポン」と呼ばれる現象を引き起こし、CPUピンを曲げたり折ったりする原因となります。
また、固着したグリスを金属製のヘラなどで無理に削ぎ落とそうとすると、CPUのヒートスプレッダを傷つけてしまい、冷却性能を低下させることにもなりかねません。
固着したグリスは、「温めて」「溶かして」安全に除去するのが鉄則です。
手順1:PCを稼働させてグリスを温める
まず、CPUクーラーを取り外す前に、ベンチマークソフトを動かすなどしてCPUに負荷をかけ、PCを数分間稼働させます。CPU自身の熱でグリスが温まり、粘性が少し戻って剥がしやすくなります。
手順2:溶剤でグリスをパックする
PCの電源を切り、クーラーを取り外したら、固着しているグリスの上に無水エタノールや専用クリーナーを染み込ませたキムワイプなどを数分間置いて「パック」します。これにより、硬化したグリスが化学的に分解され、柔らかくなります。
剥がす際の道具
柔らかくなったグリスは、キムワイプなどで優しく拭き取れます。もし、それでも残る頑固な固着がある場合は、プラスチック製のヘラや、使わなくなったプラスチック製のカード(ポイントカードなど)の角を使って、CPU表面を傷つけないように極めて慎重に剥がしてください。金属製の道具は絶対に使用してはいけません。
焦らず、ゆっくりと丁寧に作業することが、パーツを破損から守る上で最も重要です。
静電気対策は必ず行うこと

PCパーツの取り扱いにおいて、静電気は最大の敵の一つです。特にCPUやメモリといった精密な電子部品は、人間が感じないほどのわずかな静電気でも、内部の回路が破壊され、一瞬で故障してしまうことがあります。
CPUグリスの拭き取り作業を行う前には、必ず静電気対策を徹底してください。
具体的な静電気対策
専門的な静電気防止リストバンドなどがあれば万全ですが、持っていない場合でも以下の方法で対策が可能です。
誰でもできる簡単な静電気対策
- 作業前に金属に触れる: PCの電源を落とし、電源ケーブルを抜いた状態で、PCケースの金属部分(塗装されていないネジなど)に数秒間触れて、体に溜まった静電気を逃がします。ドアノブや水道の蛇口など、家の大きな金属物に触れるのも有効です。
- 服装に注意する: 静電気を発生させやすいウール製のセーターなどの着用は避け、綿素材などの衣服を選ぶのが望ましいです。
- 作業環境を整える: 乾燥した環境は静電気が発生しやすいため、加湿器などで適度な湿度を保つとリスクを低減できます。カーペットの上での作業も避けましょう。
これらの対策は、グリス交換時に限らず、PCケースを開けて内部のパーツに触れる際には常に行うべき基本的な作法です。一瞬の油断が、高価なパーツを壊してしまうことに繋がりかねません。作業中は、定期的にPCケースの金属部分に触れて、静電気を放電する習慣をつけるとより安全です。
拭き取り後のCPUグリスの塗り方

古いグリスを綺麗に拭き取ったら、いよいよ新しいグリスを塗る工程です。グリスの塗り方にはいくつかの流派がありますが、最も重要なのは「塗りすぎず、少なすぎず、均一に熱を伝える層を作ること」です。
ここでは、代表的な3つの塗り方を紹介します。
1. 点方式
CPUの中央に、米粒1~2粒大ほどのグリスを点状に置く方法です。この後、CPUクーラーを取り付ける際の圧力で、グリスが自然に押し広げられます。非常に簡単で失敗が少なく、初心者におすすめの方法です。
ただし、グリスの量や粘度、クーラーの圧力のかかり方によっては、CPUの四隅までグリスが行き渡らない可能性があります。
2. バッテン(×印)方式
CPUのヒートスプレッダに、対角線上に×印を描くようにグリスを塗る方法です。点方式よりも広範囲にグリスを配置できるため、四隅まで行き渡りやすいのが特徴です。近年の大型化したCPUには、こちらの方法が適している場合があります。
3. ヘラでのばす方式
付属のヘラやプラスチックカードを使い、CPUのヒートスプレッダ全面にグリスを薄く均一に塗り広げる方法です。確実に全面をカバーできる反面、均一な厚さで塗るには慣れが必要です。また、塗る過程で気泡が入り込んでしまうと、かえって熱伝導を妨げることもあるため、やや上級者向けと言えます。
どの方法を選ぶにしても、「過ぎたるは及ばざるが如し」です。グリスをあまりにも多く塗りすぎると、クーラー取り付け時にはみ出してしまい、CPUソケットやマザーボードを汚染して故障の原因になります。「必要最小限の量で、CPUとクーラーの隙間を埋める」という本来の目的を忘れないようにしましょう。
丁寧なCPUクーラーのグリス拭き取りで性能復活
この記事では、CPUクーラーのグリス拭き取りに使う道具の比較から、安全な作業手順、そして新しいグリスの塗り方までを解説してきました。
最後に、本記事の重要なポイントをリスト形式でまとめます。
- CPUグリスの定期的な拭き取りと再塗布はPCの性能と寿命を維持するために重要
- ウェットティッシュを使うならアルコール成分入りで香料や保湿成分がないものを選ぶ
- キッチンペーパーは繊維が残りやすくCPUを傷つけるリスクがあるため非推奨
- 最も信頼性が高くおすすめなのは「無水エタノール」と「キムワイプ」の組み合わせ
- スプレー式の「エレクトロニッククリーナー」は手軽で細かい部分の洗浄に便利
- 「パーツクリーナー」は必ず「電子部品用」「プラスチック対応」の製品を選ぶ
- 初心者や迷った場合は専用の「グリスクリーナーキット」が最も安全で確実
- 固着したグリスはPC稼働で温め、溶剤でパックしてから優しく除去する
- 作業前には必ずPCケースの金属部分に触れるなどして静電気対策を行う
- 静電気はCPUを一瞬で破壊する可能性があるため細心の注意を払う
- 新しいグリスは塗りすぎると逆効果になり故障の原因にもなる
- グリスの塗り方は米粒大を中央に置く「点方式」が初心者には最も簡単で安全
- CPUクーラーは対角線上のネジを少しずつ均等に締めて取り付ける
- CPUファンの電源ケーブルをマザーボードに接続し忘れないように注意する
- 丁寧なメンテナンスでCPUの熱問題を解消し快適なPCライフを取り戻せる